劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

a man

1週間ほど前、こんなことがあった。

 

 

同期の舞台屋がニヤニヤしながら話しかけてくる。

この男がそんなことをしてくるのは悪い兆しに違いない。

果たしてそういう時に限って、悪いことというのは起きる。

 

「今回の夏公演の抱負はなんですか?笑」

 

半笑いなだけで気色が悪いのに、敬語ときた。

実に気色が悪い。

ただ、

実にいいところをつく。

間違いない。

返す言葉に詰まっていると、

 

「(同期の音響)がね、まだやったことのないことをしたいって」

 

虚を突かれた。

ただただ、虚を突かれた。

 

「やっぱり、すごいよね。そういう風に答えられるの」

 

同感だ。

と同時に、

恥ずかしさがある。

答えに窮した自分に。

即答してみせた彼女に対しての申し訳なさも感じる。

 

その時、

目の前の男はというと、

 

「うーん」

 

などと唸りながら、素直に感動している。

こういう時に素直に感動できる。

この男を尊敬してやまないゆえんだ。

 

独り感慨に浸っていると、

 

「で、お前はどうなの?」

 

こっちをニヤニヤしながら覗いてくる。

こういう切り返しのうまさがある。

やっぱりこの男は苦手だ。

 

 

 

 

家に帰る。

少し遠い。

 

自然と、先ほどの問いに立ち返る。

 

2年前の自分だったらなんと答えるか。

1年前の自分だったら。

 

いい公演に携わりたいと思う。

その気持ちは、ずっと変わらない。

 

いい公演とは何か。

 

2年前の自分は純粋だった。

「とにかく、すごい公演」

と答えるにちがいない。

 

1年前の自分は必死だった。

「絶対に初ステにこぎつける。4ステ打ちきる」

と言いきってくれるだろう。

 

今の自分は……

今の自分は。

 

 

俺は

 

 

どう答える

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は西倉寛太

 

迷い迷わず突き進み

呼ぶ声あれば駆けつける

たとえ火の中、水の中

助けを求め駆け回る

誰にも知らんって言わせねー

今から言うぜ1度だけ

 

俺の名前は西倉寛太

 

史上最高の先輩方に鍛えられ、

空前絶後の後輩たちに出会い、

そして、

人類最強の同期とともに、

全宇宙最高傑作を完成させる男。

 

その姿を見逃すな

 

 

 

Coming soon…

劇団綺畸『スポットライトガール』

(6/6-9 @駒場小空間)

 

差し入れを持って急げ!!!!!

 

 

3年 照明・映像 西倉寛太

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

予約フォーム(西倉扱い)↓

https://www.quartet-online.net/ticket/spotlightgirl?m=0kdiebg

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あしたはどこへいく

どうも!役者・小道具3年の小林です!ついに僕も、最後のブログを書くことになりました~!信じられない…

 

我が劇団綺畸生活最後のブログは、やはり後代語り継がれる名文を書いて〆ようと思っていたのですが…

今回のブログテーマ、「誰も知らない自分」

 

今までで一番難しいテーマが来てしまいました…

この僕、小林大晃、隙があったらスグ自分語りをしてしまうので、もう誰も知らない自分なんて残っていません!

よしんば残っていたとしても、そんな貴重なもの、こんなブログでみんなにばらしてはいけない!

ので、そんなものは僕の心にしまっておいて、今回、最後のブログということで、自分の未来のことについて書いていきたいなと思います。

 

そういえば、綺畸ブログで未来将来の話題が出るのって珍しくないですかね?僕は少なくとも今までに未来に向けた文章を書いたことがないんですけど。

けれど、綺畸真っ盛りな時はそんなに未来のことって考えたことなかったですね。

綺畸で、特に役者なんてやってると、普通に生活しているだけで割と結構なペースで本公演という目標が嫌でもやってきて、その中で人とある程度関わって、しんどかったり楽しかったりしながら、思い出を残していくっていうことにそんなに疑問を抱くこともなく過ごせちゃうわけですね

 

けれど、こうやって引退が目前に近づくと、他にも人間いろんなことができるんだろうなあということがわかってくるわけです。

春休みにプロデュースを二つやって、ホール新歓の作演なんてものをやらせてもらって、色々と、演劇についての新しい世界が見えかかっているのですが、

それ以上に、就活とか、院進含めた勉強とか、今までためていた人生の選択肢が一気にドワーっと降りかかってきて、正直処理しきれていない感じの今日この頃です。

 

高校の時に演劇に出会ってからこのかた、今が一番、演劇が無くても生きていけるなあと思っています。自分がそんな気持ちになることがすごく不思議です。

何週間か後にこの夏公演の反省会が終わったら、次の日からどうやって生活していこうかなとか、もう通しとか禁禁とかで全員集合することのない同期のこととか、劇団綺畸にいた2年間は、これからの人生でどういう風に思い出されるんだろうなあとか。色々考えています。

 

全てが終わった次の日は、授業終わりにどこへいきましょう。吉祥寺も、駒場も、もうそんな行かないから。上野とか行くようにしてみましょうか。

 

役者/小道具3年 小林大晃

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

予約フォーム(小林扱い)↓

https://www.quartet-online.net/ticket/spotlightgirl?m=0kdidce

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#12  人はそれを黒歴史とよぶかもしれない [終]

久しぶりだね、元気ですか?

私は元気です。

嘘、ついこの前まで風邪をひいてました。

 

何書こう?

せっかくこうやって読んでもらってるんだから、普段話さないことを書きたいな。

 

じゃあわたしの昔話しようかな。

長くなるかもしれないけど、休み休み読んで。

 

私は、人の喜ぶ顔が好き。

だからここまでずっと、面白いこととか楽しいこととかを大切にしてきたんだ。

これは今も。

 

いわゆる本音とかも程よくチラ見せしながら生きてきてて、でも半分サービスみたいなものだから、多少の脚色はご愛嬌で。

 

でもなんか途中で、これって本当に私の言いたいことだっけ、とか笑いだけじゃ全部は解決しないよなぁって思っちゃったら今まで楽しかったことが急に色あせていったの。

失敗とか悲しい、辛い、傷ついた、を笑いに換えればいいやという心持ちも、嘘じゃないんだけど。

 

自分で自分の気持ちを見失って、

辛いなって思ったこともぐちゃぐちゃに丸めて小さい塊にして、まとめてポイ、みたいな。

 

 

好きでやっていた事のはずなのに辛くなっちゃったことにもショックだったし、それに気づいてからは人と話すのが楽しくなくてしんどかったの。

 

でもね、ふと気づいて、私は今まで正直な気持ちを全部ノートに吐き出すようにしてたなぁ、と思って。

書きなぐる時もあったし、もちろん嫌な時だけじゃなくてめちゃめちゃに嬉しいことがあった時も書き留めてた。カラーで。

 

そのノートを書いてるときは本当に正直でいられたんだ。

辛い時期に入ってからも、たまに書いてて、そしたらだんだん自分が何考えてるのか分かるようになってきて、人と話したいなって思うようになってきた。これを聞いてもらいたい。

まとまってない言葉でも、わからない感覚でも話してみていいんじゃないかなって。

そこでようやく人に相談をする人の気持ちが分かったというか、今まで私はどれだけ飲み込んできたんだろうと思った。

このままいってたら相当だいじょばなかったなぁ。

立ち止まって書き留めて本当に良かった。

 

解決しないことばっかだけどたまには暴れたり駄々こねようかなーって。

あとねぇ、くだらないことをいつまでもやってたい。

コアラのマーチの柄で物語作ったり、ねるねるねるねしたりしたいな。

 

この前部屋を片付けてたら、ちょうど去年の今頃書いたメモがたくさん発見されたの、ちょっと面白かったなぁ。

どうしてもって言うんなら今度見せてあげてもいいよ。 

なんてね、嘘です。恥ずかしいし。

 

おしまい!最後までお付き合い頂きありがとう!

はずかしいので読んだらすぐ捨てること!

じゃあ、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.S.

完全に忘れてた。このためにこれ書いたのに。

えーと、6月の頭にね、お芝居します。

最後だよ。最後だと思う。最後かもしれない。最後なんじゃないかな?

 

少なくとも今はそんな気持ち。

 

逢いに来てね。

 

 

 

孫子 朋佳

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

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この恋は褪せないナスカの碑のように

はじめましての方ははじめまして! そうでない方は砂でも舐めてて! 座右の銘は「半人半馬」、劇団綺畸一年生のエモヶ原=ネオアンジェリカ=三太夫! 東女生です!

 

アンジェリカはねー、クォーターなの。おじいちゃんはオオカミ王のロボ! ケモナーおばあちゃんの英才教育で、今ではベイブレードに性的に興奮する変態さんに育っちゃった! あ、でもアゼルバイジャンのサーカスに彼氏いるから、狙ってた東大生はごめんなさい!

 

アンジェリカには、秘密があるの。私の両手に見える部分は実は発達したアゴなんだけど、その粉末がヒメアリクイ界で不死の妙薬と言い伝えられててもう最悪! マイクロビキニコマドリ暗殺隊が日夜フォークダンスに誘いに来るわ。ボディーガードのパパ活女子達は光沢のある三角食べばっかりするし、裏切り者のパキケファロは湖面に浮かぶ初恋の幼なじみ……!? 私、これから一体どうなっちゃうの~!!?

 

胃潰瘍の油圧式ラフレシアと、ちょっぴりラッドなゴマだれ明朝体が織り成す遺伝子組み換えキャンパスライフ! 絶対零度を結納して、法曹界にイマジナリー暴走族をハットトリックしてやるんだから!!! 

 

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

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きょむになった

高校の卒業旅行で部活の同期と熱海に行きました。

 

熱海なんてどうせ温泉しかないだろって思ってたら、意外にいろいろあって楽しかったんです。

なんかトリックアートのとことか、夜中の人狼ゲームとか。すぐ殺されたんですけど。

 

いろいろ楽しかったんですけど、1番に思い出すのは波打ち際の映像なんですよね。

 

朝ホテルからすぐの海岸に行って、

まだ3月だから寒くて足だけ入ったりとかして、

みんなでわちゃわちゃしてて、

でも私は途中から、堤防に座って延々波が行ったり来たりするのを眺めてる。

なんか難しい考察とかしてたらよかったんですけど、本当に何も考えずに波を見つめている。

 

そんなことを、卒業旅行の思い出としてやたら鮮明に覚えています。

 

 

去年の3月、新人公演で小屋入りしました。

 

ひとのクッションで遊んだり徹夜したりしてました。調色ミスってキレてたという話がありますが自分ではあまり覚えてないです。

 

まあ、思うところのいろいろあった小屋入りでしたが、やっぱりよく覚えてるのは、頭がカラッポになってた時間です。

 

徹夜明けの朝、

まだ役者が来る前、

ロビーの床には誰だかわかんないような寝袋がいくつか転がっている。

私はコンビニで買ってもらった朝ごはんをもそもそと食べている。

塗り終わった達成感とか初ステへの不安とかそういう感情も何もなく、無心にロビーから外を見つめている。

 

その時の、明るい、静かなロビーが目に焼きついてます。

 

 

たぶん

気を遣わなくていい人たちの中にいるっていう安心感があって、

1人じっと頭をカラッポにしているのがけっこう好きなんだと思います。

喋るの下手だから、沈黙を許容してもらえると異常に安心なのかもしれません。

 

1夏で「何考えてんのかわかんなくてこわい」って100回くらい思った人と、そんな感じに何も考えずに過ごせるぐらいになった2年間でした。

 

夏の小屋、カラッポは好きだけど、やっぱりできるだけ同期や後輩と喋っておきたい気もします。

 

 

宣伝美術3年 斉藤

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

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天気予報

 

その1 快晴!たまにだらだら、のち晴れ。

その2 乾燥、過ごしやすい。てっぺん苛苛。

その3 風が少ない。束の間の平穏。

その4 大雨、小雨。重力に従って落ちる。

 

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまわる。

何十年もぐるぐるまわる。

なのにぴょんぴょん跳んじゃうの?

ぴょんぴょんぴょーん、どんっ!

跳ねたら落ちたとき痛いのよ。

それに落ちなければいいってわけでもないの。

飛んでいっちゃうのはルール違反。

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまわる。

順番守って晴れたらいいね。

そしたら雨も嫌いじゃなくなる。

 

 

制作  柘植広香

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

予約フォーム(柘植扱い)↓

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美大通りの演劇

吉祥寺から東女に行く時、それはだいたい夕方が多いのだが、ほぼ決まって美大通りという通り、確か500メートルくらいの直線なのだが、そこを歩く。なぜかそこでは、ほぼ100パーセント一人で歩いているからかはたまた別の理由か、視線が上を向く。きまってそうであるわけではないが、というかどちらかというとそれはきまぐれに、美大通りに入った瞬間、正確には左手に見えるあんこ屋さんを通り過ぎたあたり、そう、ちょうど上への視界が開けてから、視線がすっとまるでそうなることが全くの自然であるかのように、歩きスマホから目を上げて、それは決してその時間帯に充電がなくなりやすく、やることがなくなるからではなく、眼前に、より正しくいうと視界の上の方に、広がる空に、それも西に沈んでいくであろう太陽の光が綺麗に写っている夕焼けがかった空を左手に見ながら、空を見る。

 

空を見る。空を見ると、ごく一般の例に全く漏れることなく、自分のちっぽけさを感じる。それは例えば、自分の上に広がる青々とした、時に様々な表情を見せる空を無粋にもけたたましい音を立てて横切ることが稀にある飛行機の窓から、下を覗いた時に、あるいは、東京タワーでもスカイツリーでも通天閣でも東横インからでも見下ろした時に見える、歩いている、仕事をしている、楽しそうにしている、生きている、そんな人々を、歩いて空を眺める自分がそういう視点を想像して、思うちっぽけさなのだとしたら、それは歩いている自分にとっても、手を透かしてみれば飛行機なんて指の間に収まるし、それに乗っている何十人のうちの一人なんてミリ以下の単位でしか表すことのできない小ささなのだからむしろおまえらの方が歩いてる自分にとってはちっぽけだと、言ってやりたい気持ちにもなってよかろうものなのに、ということを思ったことがあったことを思い出す。

 

思い出す。色々な空があることを、その空は途方もない感覚でつながっていることを。過去があり未来があったことを。そのくらい思うと高架線が視界を横切る。そこに登ってみたいという幼心や、その梯子を登る時の、手の、足の、震えや、恐怖心と高揚感を、歩いている自分が想像する。渡り鳥らしき鳥たちがそこに留まっていたのを思い出す。そしてその鳥が西へ飛んでいく神々しさを思い出す。感覚の世界にダイブするのを横切っていく自転車や車が止める。それに不満であるときは、そうでないときもあるのだが、口笛を吹いたりイヤホンから流れる音楽を口ずさむ。音と体がつながると自然にリズムに乗ってなんだか歩調が軽くなって、きっと後ろからそれをみている人がいたらもしかすると通報する人もいるかもしれないが、そうでなくても怪訝にあるいは不審に思うのだろうが、それをまた想像して調子の悪いときはすぐにやめてしまうのだが、調子のいいときはそのまま歌い出したりしたりしなかったりするのである。ここまでくると右手に見える郵便局はとうの昔、中学校を左手に見るくらいだ。中学生を美大通りで見た記憶はあまりないのだが。時たま時報の音が聞こえる。5時を知らせる時報の音である。それが空に霧散していく情景が夕焼けも終わり夜へと誘われている空に重なることもあった。

 

また別の切り口となる。空を見て、飛行機や高架線や音を思わないとき、何を思っていたのか、はたまた何も思っていなかったのか、何も思っていなかったということはないだろうが、何かを思っていたことは覚えている。そういう時はきまって廃墟まがいの家から漂うほこりっぽい匂いや、今にも雨が降り出しそうな時の湿った匂い、どこからともなく香ってくるぶり大根、もしかしたら肉じゃがかもしれないが、その匂いを感じて、また美大通りから意識を遠くに飛ばすのである。もしかしたらその先に空があるのかもしれないが、しかし決して空から俯瞰した自分を想像したことはなく、どこか別の世界へと夕方という狭間の時間が連れて行ってくれていた魔法だったのかもしれない。

 

魔法だったのかもしれない。もうすぐ美大通りも終わりを迎える。美大の校舎を右手に過ぎ、高価そうなマンションと緑地が見えてくるとこの魔法のような、あるいは本当に魔法の、時間は終わってしまい、雑多な車の通りと、美大通りにも車の通行はあるのだが、視界の位置がひくくなってしまうことに終わってしまう。なんとかこの空の美しさを目に焼き付けたい、と思ったことは全くもって一度もないが、ふとスマホの充電があれば、大体の場合はあるのだが、時間を確認して歩調が急かされたりもする。魔法が現実に打ち破られる瞬間である。その一瞬の感覚もまた、あまりに自然すぎるもので、覚えておくというより、ただその結果が歩いてきた道に落っことされているに過ぎないのだが、それを立ち止まって、振り返って、ちょっと戻って、ポケットから落っことしてしまったハンカチを拾うように、すくい上げてみると、なんとなくの実感をその手にした、本当は手にすることなんて出来ないのだが、その重さに、時間、空間、走馬灯、加速、あらゆる体感を置き去りにできる、そんな空がその重さを感じさせてくれていると直感させられることになるだろう。しかし、それもまた、たらればの話であって、よいこであってもなくても真似してはいけないし、誰かやったことがある人がいるのかどうかも定かではないが、信号をちゃんと守って美大通りを後にすると、そこに、ちゃんと空も、通ってきた道も、あるのに──

 

 

 

 

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劇団綺畸2019年度夏公演

『スポットライト・ガール』

作・演出 黒橋拓

 

6/6(木) 19:00

6/7(金) 19:00

6/8(土) 14:00/19:00

6/9(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

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