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劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

れ抜きの殺意

れ抜きの殺意


吸い寄せられるかのようにその居酒屋の戸を開いた男は驚いた。客の気配などたったのさっきまで無かったのに、最寄駅から高架下に沿ってほんの数分歩を進めたところにあるこの店の中は、意外にも盛況であった。男がその気配に気付かなかったのもそのはずで、客は皆、居酒屋らしい活気とは無縁とばかりに黙々と箸を進めているだけであり、最終列車を逃した呑兵衛達が惰性で夜を飲み明かしているというわけでもなく、地元の人間が一家の大黒柱の任を忘れて羽を休める隠れ家というわけでもなさそうである。その証拠に客は皆、仕事帰りというには少し小綺麗過ぎる装いで、飲み屋の客というにはあまりにも静かだった。

兎にも角にもそれは、おそらく最終列車を逃して無目的にその店の戸を叩いたのはこの中で自分だけなのだと、男が理解するには十分異様な光景だった。

壁一面には居酒屋らしく手書きで品書きがある。が、一際大きく目立つカタカナで三文字、バサシとある。どうやら皆これ目当ての客らしい、そうか隠れた名店とはこのことかと妙に合点がいって男も一皿頼む。

とすると、どうだろう、赤い刺身と小皿には塩とゴマ油。通はこうなのかと、一切れ口に運ぶ、とその刹那。口に広がるのはどこか懐かしい味。しばらくしてからようやっとその味を思い出し、全てに納得がいった。そういうことか、ここは確かに隠れた名店かもしれない。本当は食べる前に気付くべきだったのだ。すぐに気付かなかったのも無理はない、長らくそれを食べていなかった、いや、食べられなかったのだから。これは馬の刺身などではない。ゴマ油を添えて食べる馬刺などあろうか。ここにいる皆がある種後ろめたさのようなものを共有しながら、いまでは何処の焼肉屋でも食べることのできないあの味に舌鼓を打っているのだ。ここは皆がバサシという禁断の果実を味わう高架下の秘密の料亭である。


とりあえずそんな話じゃないです。稽古開始しました。


決起会にて

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劇団綺畸2016年度夏公演『馬刺』

作・演出 齋野直陽

6/9(木) 19:00

10(金) 19:00

11(土) 14:00/19:00

12(日) 14:00/19:00

駒場小空間

入場無料カンパ制

予約不要・全席自由席

受付開始は開演の45分前、開場は30分前です。