千秋楽の公演のことを楽ステと略して呼ぶ習慣がある。集大成を見せるつもりで、あるいは醜態を見せまいと各々、力が入る。
幕が開けるまでも幕が開けてからも、楽しいという人もいれば楽しくないという人もいる。それぞれかかる重みもかける思いも違う。
楽をする人も出てくる。減った分の重みはどこに行くだろうか。考えずにただ楽をする人はきっと、心からは楽しめない人だろう。あるいは誰かから楽しさを泥棒しているのかもしれない。盗むなら技にしろ、と誰かが言う。別にいいんじゃない、と誰かが返す。
返された人は思う。重い。思い思いに動いていても幕は開く。開いた幕の隙間から疲れという名の鈍い光を纏った鉛の体が見え隠れした途端にトタンに当たる雨は黒ずんで心に穴を開ける。何かよからぬものが混ざっている。
心に傘をさす。その隣を通り抜けた泥棒は傘の下から覗く顔に驚く。死んでいる。泥棒の姿に気づいた死客は何も言わない。ただ開けた幕に目をやるだけである。
泥棒は訝しげに思いつつ、自分の罪が暴かれない事を密かに喜ぶ。しかし楽しさの代わりに泥棒が残した重さに押し潰された者だけはその罪を知っている。幕の中に葬られている彼は沈黙を守る。
観客はその沈黙に耳を貸すことに注力せず、ただ舞台上に注目する方が幸せである。
役者・映像・web 岩崎
劇団綺畸2016年度夏公演『馬刺』
作・演出 齋野直陽
6/9(木) 19:00
10(金) 19:00
11(土) 14:00/19:00
12(日) 14:00/19:00
於 駒場小空間
入場無料カンパ制
予約不要・全席自由席
受付開始は開演の45分前、開場は30分前です。