劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

他人と毛虫と冷蔵庫

今まで読んできた中で、好きだと思った本はたくさんあるが

その中でも何冊か 好き過ぎてついえこひいきしてしまうくらいに好きな本がある。

永井均という哲学者がいて、彼の著作はそんな本のひとつ。

僕が習っている記号論理学の先生は

彼の本が「読み物としておもしろい」ことは認めながらも

そこに書かれた議論にけっこうな勢いで反論していて

その反論にはなかなかもっともなところがあったのだけれど

そんなことでは 僕の永井均に対する愛着は揺らがない。

だってえこひいきしてるから。

彼の本は問いかけに満ちている。

例えば

「他人と毛虫と冷蔵庫は どれもみんな似たりよったりだ。

 ぼくだけはそいつらとぜんぜん似ていない。

 どうしてこんなにも似ていないものが

 たとえば『生物』といった分類のもとにまとめられて

 冷蔵庫や太陽と区別されたり

 『人間』といった分類のもとにまとめられて

 毛虫やその他の生物と対立させられたりするのだろうか。」

「たとえば世の中には色々な理由で殺人を犯す人がいる。

 そういう人は 殺人が道徳的に悪いことだということを知らないわけではあるまい。

 でも彼はそれを行った。

 なぜだろう?

 そういう道徳的根拠を凌駕するような もっと強い動機を持ったからだろう。

 道徳は考慮されたうえで捨てられたのだ。

 それなのに その行為が道徳的に非難されるなんてことが

 どうしてできるのだろうか」

こういう問いかけを読むたびに、僕は心の中で

「子どものころ、自分も同じこと考えてた!」

と小さく叫んだ。

それから あの頃の

どんな本を読むでもなく

勝手にこういう問いかけを思いついては

本気で不安になり 本気で悩んでいた

あの感覚を思い出した。

いつの間にか僕は その感覚を忘れてしまっていたらしい。

永井均のおかげで思い出すことはできたが

同じ感覚に陥ることはもうできない。

ではその代わりに

社会人生活を目前にした現実的問題に頭を悩ませているか

………というと そうでもなく

すでに就職の話をしている同級生を横目に見つつ

中途半端な気持ちで「すごいなあ」とつぶやいている。

問いかけが詰め込まれることのない どっちつかずの僕の脳みそには

だから余計なすき間がたくさんあって

そこに試験用の数式を詰め込みながら

大人になっても本気で悩んでる永井均に憧れる

そういうここ1、2年。

中石

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劇団綺畸2016年度冬公演

『回想畸譚』

作・演出 岩崎雅高

12/22(木) 19:00

23(金) 19:00

24(土) 14:00/19:00

25(日) 14:00/19:00

駒場小空間

全席自由席

予約不要・カンパ制(料金自由設定制)

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