劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

夏の始まり

2005年の夏。
友達が木に引っかけたゴムボールを取るために自分の頭ほどもある石を投げ上げた小学四年生が、同じ軌道を落ちてきた石に頭をぶつけて大怪我をした日、2005年の夏は始まった。


2007年の夏。
乱暴な兄の漫画を勝手に読んだ事がその兄にバレた小学六年生が、「もしも金を払わずにおれの漫画を読んだら」という条件に従って兄の「奴隷」になった日、2007年の夏は始まった。


2005年の夏は長かった。

大怪我をした小学四年生は、四針縫われた頭を段ボールに入ったメロンのようにネットで覆って、夏の間に市民病院に通うことになった。

やがて傷を治した小学四年生が市民病院に通わなくなった日、2005年の夏が終わった。


2007年の夏も長かった。

「奴隷」にされた小学六年生は、ある日は乱暴な兄の部屋にジュースを運び、またある日は乱暴な兄の乗る馬になって兄を二階の部屋まで運んだ。

やがて我慢の限界を迎えた小学六年生が泣きながら兄を何度も何度も殴った日、2007年の夏も終わった。


2005年の夏の事も2007年の夏の事も、全てを鮮明に覚えている。

木に引っかかったゴムボールは黄色かった事、市民病院の待合室には茶色い柱時計があった事、「奴隷契約」の条文が書かれたノートの端に「東インド貿易会社」と書かれていた事、兄が殴られながら忍び笑いをしていた事。


一方で思い出せないのは2人の小学生の事だ。
待合室の柱時計の色は思い出せても、それを見つめる小学四年生の退屈は思い出せない。
前歯をむき出しにしてにやつく兄の顔は思い出せても、それを殴る小学六年生の怒りは思い出せない。


私達にとって、間抜けで弱い彼らは他人に過ぎないからだ。


私達は彼らのような事はしないから、だから私達と彼らは違う。私達と彼らは違う事をするが、正しいのは常に私達である。


正しさは必ず、彼らより多くの事を考えて生きている私にあるのだから。

 


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劇団綺畸2017年度夏公演

『鴉神話』

作・演出 齋野直陽

6/8(木) 19:00

9(金) 19:00

10(土) 14:00/19:00

11(日) 14:00/19:00

駒場小空間

全席自由席

入場無料・カンパ制

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