物語をテーマにして何か書こう、と思ったときふと頭に浮かんだのが、数年前に見たクリント・イーストウッド監督『15時17分、パリ行き』でした。
これは2015年にパリ行きの特急列車で実際に起こったテロ事件をもとに作られた映画で、主人公はそのテロに遭遇して犯人を取り押さえた若者たち(もちろん彼らも実在します!)です。彼らをはじめとして、4人のテロリスト役以外はその電車の乗客もみんな本人が本人の役を演じているというのも面白いところです。
また、この映画ではいわゆるフラッシュバック技法が使われており、主人公たちがヨーロッパに旅行に出掛けてパリ行きの列車に乗り込むメインストーリーの合間合間にその若者たちの過去が代わる代わる同時並行で描かれます。 私がこの映画の特徴であり面白いところだと思っているのは、映画らしからぬ無意味なシーンが大量にあるところです。
例えば中盤、ヨーロッパ旅行中にちょっと仲良くなった美女との会話に結構な時間が割かれます。普通それなりに尺を取って描写された人物というのは再登場したり物語の鍵を握る存在だったことが発覚したりしますが、この映画ではそんなことはありません。実話だからです。
それの何が面白いのかと思われるかもしれませんが、私が面白いと思ったのは観ているうちにこの大量の無意味から意味が生み出されていく過程なのです。
たとえば彼らはどこの職場にもあまり馴染めずとりあえず食いっぱぐれないように軍隊でも入るか、というノリで軍隊に入るのですが、「彼らがヒーローになる」という結末を知った上で見るとそれがまるで「この日この場所で乗客を救うために軍隊で鍛えられていたのだ」とでもいうような運命的なものに感じられるのです。
そして、これこそが物語の力なのではないでしょうか。物語というのがラストシーンに向かって配列された出来事の集まりであるとするなら、物語の力は人生という無意味なシーンの集合にその秩序をもたらし意味を与えることです。人生は莫大な数の無意味な偶然でできていて、なにか大きなできことの存在によってそれらのうちいくつかがいきなり「伏線」として立ち上がってくるのです。
さて問題はその「なにか大きな出来事」というのがいつ起こるのか、という点ですが、こればかりは分かりませんから日々目の前の課題に真剣に向き合い続けてスタンバイしておくほかないでしょう。『15時17分』の主人公たちも、日々軍隊での鍛錬をきちんとこなしていたからこそ犯人を取り押さえることができたわけですから。
というわけでとりあえずはまず冬公演『FORE』、全力で頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。