劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

下手くそピッチカート

上手くなかったんですよ、コントラバス。なんとなくで中学の吹奏楽部に入って、目についたのが唯一の弦楽器であるコントラバス。他に希望者もいなかったから僕がコンバス奏者になりました。

キラキラしていたのは最初だけで、唯一いたコンバスの先輩は半年で消えてしまって、薄っぺらい教本と意味わかんない顧問だけが残された部室でひたすら練習するしかなかった。どうしよう~~~!!!!????と一人で焦っている間にみんなは上手くなり、二年生になり後輩ができてコンクールメンバーになってしまいました。

でも、結構努力はしてた「つもり」でした。部のみんなからも努力家だねって言われてました。でも、意味のない努力は、当然意味がないのでたいして上手くはなれなくて……それでも僕が放置されていたのは、部のだれも、弦楽器がわからなかったから。

でも、出来ないなら相談するべきだったんです。先生を外部から呼んでもらえませんかとか、言えばよかったのに。なんでか言えなくて、言えないまま、後輩に何も残せないまま卒部しました。

 

高校に入って吹奏楽をやめました。もう嫌な思いしたくないし。

でも、同じクラスのトロンボーンとかドラムがすげえ楽しそうなんですよ。なんか、「コンバス奏者足りてないんだよ!」とか言って揺さぶってくるし、吹奏楽あるある話してるときはめちゃくちゃ楽しいし。

未練はすごくあって、定期演奏会とか、コンクールとか、わざわざチケット取って友達の応援に行ってたんです。そんで、吹奏楽好きだなあって思うんです。舞台上に自分がいるところを想像したり、運指をミラーリングしてみたり、するんです。

スマホの壁紙は中学の頃使ってたコントラバスだったし。

 

でも、入れなかった。

「初心者だと思って教えてください!」って言って入れば、教えてくれる先輩も顧問も高校にはいたはずなのに、それでも、どうしても、ダメだった。「響け!ユーフォニアム」を見ていられなかったから。

 

最近、駒場を歩いていたら吹奏楽の音が聞こえてきました。そしたら、頭の中にレーファレーレーファレーって譜面が流れてきて、絶対弾いたことあるやつだ!と思って、なんとか突き止めなきゃって思って、sportifyの、吹奏楽名曲集的なプレイリストを漁って、見つけ出しました。

吹奏楽のための民話」でした。民話、民話って呼んでたな、って。譜面が今でも出てくるって、結構頑張ってたのかもと思いました。

 

正月に帰省して、同級生に会いました。サックスのマイ楽器をもってて、僕と違って上手くて、女遊びが激しくて、正直苦手だったやつ。そいつに「お前が高校でどのぐらい上手くなったか楽しみだったのに」って言われたんです。

 

どうしても吹奏楽が聞きたくなって、「響け!ユーフォニアム」を一気見しています。主人公が毎話のように「上手くなりたい!」って叫ぶから、自分もそうだったなって重ねちゃって、もう、見てられないです。劇中の三年間が2015年からで、俺の中学生時代に丸被りしてるから登場する課題曲も全部知ってて、本当に近いんです。湿った廊下、血豆、顎を壊して楽器移動した友達、全部見覚えがあるんです。

なんか、恵まれない学校から良い先輩がいる高校に進学したコンバス奏者の男の子とか出てきて、なんで俺はそうしなかったんだって、こうなってたかもしれない自分みたいなのがいて、自分の情けなさを突きつけられています。見れば見るほどに、教本すら適当にこなしていた時間への後悔が積もって積もって、積もり続けています。

でも、全部見なきゃ駄目だと思いました。

 

高校まで吹奏楽を続けた人、まだ続けてる人、そういう人が吹奏楽を語るべきなのはわかっています。僕より濃い思い出だってあるはず。だけど、これは僕の原点で、僕の一番好きな楽器は一生コントラバスです。

 

そろそろ小屋入りです。散々吹奏楽のこと語ってますけど、俺たちが駒場小空間でやるのは演劇です。

少なくとも、この脚本、その時の状況、今の俺の実力でできる最善の演出をつけています。

全日本吹奏楽コンクールの12分間に比べれば長い上演時間です。吹奏楽聞けると勘違いして来ちゃったらびっくりしてしまうと思うので、気をつけてください。

 

(文責:演出・役者 甲斐敬識)