鳥のさえずりと、人の喧騒。
動物園に居ました。
類人猿の檻の前。
一頭のオランウータンが目にとまります。
手のひらほどの小さな銀皿の上に、マスタード色をしたペースト状の餌。
ちょうど、離乳食の瓶をそのままあけたような、どろりとした質感は、まさしく消化されるために産まれてきたと言わんばかりに、自分の存在意義を主張しています。
背筋を丸め、それをちびちびと啜る彼のうしろ姿は、一種の哀愁を纏って、私に語りかけました。
眉雪。忸怩。幽獄。諦観。
老ゆ、悔ゆ、報ゆ。
うゆ。。。
ふと目を離した、僅かな合間だったのです。
つい先刻まで底が見えていたはずの餌皿に、気づけば、例の流動食がなみなみと湛えられていました。
いつの間に?
いつの間にやら。
毛むくじゃらは、泰然たるもの。
一切を語らず、ただ静かに食事を続けています。
飼育員さんがこっそり入れたのでしょうか?
いえいえ、それはありえません。
いくらぽやぽやした当時の私であっても、檻内に人間が出現したならば、気づかぬわけもなし。
まさしく、魔術か奇術の類い。
きっと妖精さんの仕業に違いない、幼かった私は、そう結論づけました。
となれば、その姿を一目見たいと思うのは、至極当然の理。
次こそは見逃さぬようにと、溢れんばかりの視線をたった一枚の皿に注ぎます。
出てきておくれ、妖精さん。
……いや妖精さんて。
程なく、私は目撃します。
見つめる先の、獣の口腔から。
ぬらぬらと生温かい輝きを放つ、かつて餌であった何者かが吐瀉される瞬間を。
そして。
見つめる先の、獣の口腔へと。
今しがた放出された黄色い塊が、再びずるずるりんと吸い上げられていく様を。
妖精さんなど居なかった。
吐いては飲み、飲んではまた吐く、年老いたオランウータンの姿が、脳裏に焼きついて離れません。
いずれ、私も。
役者/小道具 2年 小池
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劇団綺畸2018年度冬公演
『ふれろ』
作・演出 中村光汰
12/20(木) 19:00
21(金) 19:00
22(土) 14:00/19:00
23(日) 14:00/19:00
於 駒場小空間
予約制・無料(カンパ制)
全席自由席
予約フォーム(小池扱い)↓
https://www.quartet-online.net/ticket/kiki18fuyu?m=0kdidbh
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