劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

ビビッドカラー

随分と長いこと会っていない友人が居る。彼(ここでは仮にKとしよう)とは高校の三年間を同じクラスで過ごし、人付き合いの苦手な私にとっては気軽に話せる数少ない人間の一人だった。

 

親友、といってもよい。

 

Kはかなりの変わり者だった。彼は私にストラヴィンスキーについて熱弁を振るい、スポットライト仮説なる理論を真剣に語り、現代日本における農業の衰退ぶりを嘆き、既存RPGに対するUndertaleのアンチテーゼ性を興奮まじりに説いた。彼の関心はいつも目まぐるしく変化していたが、彼はその全てを心から興味深く、面白いと思っているように見えた。私はそんな彼の話を半ば呆れながら、しかしそれ以上に心を躍らせながら聞いていた。

 

おそらく彼は、博識ぶろうと特別の努力をしていた訳ではなかったのだと思う。単に彼にとっては、日常のどんな些細なことも未知の世界へつながる扉で、その先を見に行かずにはいられなかったのだろう。「人生は夢だらけ」と口癖のように言っていた彼の目に映る世界は、果てしなく広く、色鮮やかだったに違いない。

 

一方で、当時の私にとっては、世界は狭く単調なものだった。決して不幸だったわけではない。家族との仲は悪くなかったし、友人も少ないとはいえいなかったわけではない。受験という不安はあったが、それも自ら選んだ道だからと受け入れていた。しかし、日常がそれだけ平和だったからこそ、私はそこから逸脱することを恐れていた。何かに挑戦したいと思っても、周りから変に思われないかと心配になって無かったことにする。怒りや悲しみも表に出さずに無難な言葉で誤魔化す。私にとっての世界は選択肢式のアドベンチャーゲームに似ていた。イベントが発生すると行動の選択肢が現れて、どれを選ぶかによってシナリオが分岐する。私はバッドエンドにならない選択肢を選ぶことに細心の注意を払っていたが、それがグッドエンドやトゥルーエンドに繋がるものだとはとても思えなかった。

 

そういった事情もあって、私はKに対し少々複雑な感情を抱いていた。私は彼を尊敬していたが、それは自分は彼のようにはなれないという悔しさと諦めを含んだものだった。彼は親友には違いなかったが、自分とは別種の人間に思えた。ただ、彼といることで、自分の見ている世界が唯一絶対のものではないと気づけたことは、私の世界を変える可能性のひとかけらだったのだと今は思う。

 

Kは私に数え切れないほどのことを(頼んでもいないのに)教えてくれたが、反対に私が彼に何かを教えたことはほとんどなかった。それは、当時の私に彼ほどの熱量を込めて話せることがなかったということでもある。けれども今は違う。私の世界の大部分は未だにモノクロームのままだが、そこには鮮やかな色に染まった一角がある。良い演劇のために努力を惜しまない人々の集うその場所でなら、私も現状から一歩踏み出す勇気を持てる。次にKに会えたとき、私はその場所について嬉々として語るだろう。嘘や誤魔化しのない、本心からの言葉で。

 

 

 

 

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劇団綺畸2019年度冬公演

『Alpha and Omega』

作・演出 入江啓明

 

12/19(木) 19:00

12/20(金) 19:00

12/21(土) 14:00/19:00

12/22(日) 14:00/19:00

駒場小空間

予約制・無料(カンパ制)

全席自由席

 

予約フォーム↓

https://www.quartet-online.net/ticket/alphaandomega

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