劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

綺畸の公演ができるまで 〜作演について〜

こんにちは。劇団綺畸2年生の北村章吾です。新入生の皆さん、興味のあるセクションはもう見つかりましたか?劇団綺畸のメンバーは、7つのメインセクション(役者、舞台、音響、照明、宣伝美術、衣裳、制作)のうちどれか1つに所属し、加えて任意でサブセクション(web、映像、小道具)に所属できます。しかし、これらとは別で「作演」という役職も存在します。私は普段は舞台・映像として活動しているのですが、2019年度新人公演「それでも朝日は僕らを照らす」では作演を務めました。この記事では、新人公演の際の私の体験をもとに、綺畸の公演ができるまでを作演の視点から紹介します。


作演の主な仕事は2つ、「脚本を書くこと(作)」と「劇の見せ方を考え、全体にまとまりを持たせること(演出)」です。綺畸の上演する作品は、基本的に団員によるオリジナル・新作です。そうして一から演劇を作っていく上で中心となるのが作演です。


作演は、「作会」と呼ばれる会議によって公演ごとに選ばれます。作会の時期や回数は公演によりますが、3月中旬に予定されていた新公の場合は12月の末と1月の初めに2回行いました。作会では作演志望者が作品のプレゼンを行い、それを元に劇団員の投票によって作演を決定します。この時点ではまだ脚本は完成していなくてもいいのですが、作演志望者は自分の作品のあらすじや行いたい演出をまとめたレジュメを発表する必要があります。公演の成否を左右する重要な会なので、作会は基本的に真剣な雰囲気で行われ、質疑応答も盛んに行われます。


作会を経て作演に就任すると、早速作演の”演”の方の仕事−各スタッフセクションとの会議が待っています。ここで作演は自身の要望や作品のイメージをきちんと説明することが求められます。例えば今年の新公の場合、作品のイメージカラーが白・オレンジ・灰色だったので、舞台や宣伝美術、特設サイトはそれらの色を基調にするように要望を出しました。


一方で、”作”の仕事も並行して進める必要があります。脚本の完成に明確な締め切りはありませんが、公演の約一ヶ月前から台本を使った稽古が始まるので、それまでにある程度形ができている必要があります。これは毎公演行なっているわけではありませんが、今年の新公では第一稿が完成した際、有志で脚本について意見を交換する会を開きました。苦労して書き上げたばかりの脚本を人に見せて意見をもらうのは勇気が必要でしたが、自分一人では気付けなかった改善点を洗い出すことができ、とても心強かったのを覚えています。


さて、先述のとおり、公演の一ヶ月前からは台本を使った稽古が始まります。作演はこの稽古のリーダーです。舞台上での役者の動きやセリフの言い方を指示し、気になる点があれば指摘したり、逆に役者から台本について質問を受けたりします。また、どのシーンを練習するかといった稽古の進め方も作演が決めます。とはいえ私の場合、演技については全くの素人なので、演出は役者のアイデアに頼ることが多々ありました。そうしたやり方が作演として正しいのかはわかりませんが、少なくとも役者の意見のおかげで格段に面白くなった箇所はいくつもあったように思います。


台本練が始まると、毎週一回「通し」というイベントが行われます。通しでは、役者が劇を稽古が済んでいるところまで演じ、ほかの団員がそれに対してフィードバックを行います。寄せられた意見は作演も確認し、必要に応じて演出の変更や改稿を行います。また、通しでは音楽や効果音(本番が近づくと小道具も)がつくので、それらが狙い通りの役割を果たしているかも併せてチェックします。


あとはとにかく稽古を重ねて完成度を上げていく、というのが公演本番までの作演の仕事なのですが、実は私はこの仕事をやりきったとはいえません。新型コロナウイルスの流行と、それに伴う大学からのサークル活動自粛要請のため、公演を中止せざるを得なくなったからです。とはいえ、いわば成り損ないの身である私でも言えるのは、話し合いを重ねて演劇を創っていく面白さです。上に書いた通り、作演は常に自分の考えを団員に話したり、逆に団員の考えに耳を傾けたりします。そうする過程で、作品の構想を始めた時よりもテーマへの理解を深めたり、自分にはなかった視点に気づいて作品に広がりを持たせたりすることができます。また、稽古や通しで意見を得られることによって、脚本や演出の完成度を自分一人では達成できなかったであろうレベルにまで引き上げることができます。演劇は多くの人間が一丸となって作るものだ、ということを最も強く実感できるのが作演だと思います。


もしあなたが今、何か演劇で表現してみたいアイデアを持っているのなら、忘れないうちにメモに残しておくことをお勧めします。そして、綺畸に入団し、しかるべき機会がやってきた際には、ぜひ作演に立候補してみてください。私たちは、あなたと、あなたの思い描く世界を待っています。