劇団綺畸稽古場ブログ

劇団綺畸は、東京大学と東京女子大学のインカレ演劇サークルです。名前の由来は「綺麗な畸形」。

細く、長く

 「細く、千切れず」の作演出をした甲斐です。沢山の方に見ていただけました。嬉しかったです。ありがとうございました。以下色々書くけど、来年3月にある新人公演を見に行ってあげてくださいというのだけ覚えてもらえれば大丈夫です。役者で言うと、黒木陽翔、谷口真理、黒木京子、美智子、横山弘、孝子の演者が新人です。スタッフについても紹介したいのですが直接姿を見ていないでしょうからやめます。ただ、スタッフワークでも新人のみんなが大活躍していたので、新人公演と言えどもクオリティを落とすことはないだろうと思います。是非、来年3月の新人公演に足をお運びください。

フライヤーも新人の作品です。すごい



 こんなところで、今作について色々書いていこうと思います。

 

 小屋入りと同時に公開した、「作演出の見る冬公演 - 劇団綺畸稽古場ブログ」にて、「取り扱ってみたい主題がありました」と言うふうに書いていました。終演したことですし、ここら辺について書いていこうと思います。

 

 その「主題」と言うのは、ざっくり言うと「反出生主義」と呼ばれるものです。以前から関心のあったこの思想について何か書いてみたいというところから今作の執筆は始まりました。ただ、今作が反出生主義の説明に終始しているようでは面白くないし、そんなものが描きたかったわけではありません。ですから、主題と言ってもあまり重く受け止めなくてもいいかなあとか思います。スタート地点(あるいは終着点)として反出生主義というものが設定されていたとしても、僕は今回の戯曲全体を通して、「出産・出生」「老い」「死」「継承」など、人類の生命活動全体について書いた気がしています。その原動力は、たまに見かける「性と死を使わないと面白くできない奴は三流だ!」という言説への反抗心だったかもしれません。両方使ってやろうと思って。

「作演出の見る冬公演」で言及してた作家は品田遊さんです

 また、僕は今回の戯曲において何らかのメッセージを発信しようという意図を持っていません。単純にそういう説教くさいものが嫌いと言うのはありますが、誰かに強く訴えかけたいほどの主張を僕が持ち合わせていなかった、と言うのがおそらくは正しいのだと思います。今作において出生について相反する主張が複数出てくるのは、「一つ一つの主張を相対化させるため」と言う小賢しい考えによるものでもありますが、僕が一つを選びきれないために脳内で渦巻く沢山の声をそのまま舞台上に上げただけと言うのもあると思います。

 

 アンケートで沢山の人に褒めていただいてます。まさかあんな怖いことしてこんなに褒めてもらえると思ってなくてびっくりしています。もちろん「不親切すぎる」などの真っ当なご意見もありましたが。反省することは多いけれども、僕のつくれる一番良いものはできたんじゃないかなと。

 

 そんなアンケートですが、複数の人が「齢20でこの『諦念』!?」と書いてくれていました。びっくりですね。僕のこれまでの人生の鬱屈、演劇に対する恨みを感じたというのもありました。あと優しさを感じたらしい。面白いな〜と思いながら読んでいます。別にそんなのこめるつもりじゃなかったのに、いつの間にか読み取られてて。でも、まあ、そうなのかなあとか思いました。

 

 公演期間中考えていたのはパレスチナのこと。僕は「ハマスが攻撃してんのになんでパレスチナ擁護する旗ばっかあんの?」とか街を歩きながら思って、その理由を調べました。どうやらイスラエルが酷い虐殺行為をしているようで、なるほどなあと思いました。

 すばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人さんの受賞の言葉を聴きました。「とにかくなりたくない恥知らずな作家」という、パレスチナ問題に背を向け日常を綴る小説家を非難するような言葉がウッて刺さりました。でも僕は、ウクライナ侵攻の時だって「大変だなあ、虐殺は良くないなあ」って思うだけで、それ以上のことをする気になれない。デモに参加でもすれば何かの役に立つかも知れなくても僕はできない。何もしていないのに、何となく罪悪感を持ったり、世の中終わってんなあって思ったり。

「みどりいせき」で受賞されてます

 こんな世界に生まれてくるのは不幸なのか、「こんな世界」と思っているだけで本当はそこまで悪くないのか。人間全員に聞けるわけでもないしわかんないけど、少なくとも僕は恵まれて生きているから生まれてきてよかったと思えている。だからきっと、諦念を感じる人と同じぐらい、この劇に優しさを感じてくれる人がいたのかなあと思います。

 

 自分や周りの人が不幸だから世界はクソで、そんな世界に子供を産むのは非道徳的だと思う人がいる。そして、自分は不幸じゃないけど道徳的に考えたら子供を産むのは非道徳的だと考える人がいる。そのどちらも僕は単純に肯定しないけれど、前者のような人から目を背けたいけど背けたくないから書いたのが今回の劇なのだと思います。

 

 ただ、まあ、さっき書いたみたいに今回の劇にメッセージなんてものはないです。逃げてるみたいだけれども。読み取りたいことを読み取ってくれればそれでいいと思っています。読み取るのも大変だったでしょうが……

 

 結構長く書いちゃったしどう締めればいいかわかんないのでここらで終わります。改めて、こんなメチャクチャな劇を実現させてくれた座組のみんな、ありがとうございました。そして何より、ご来場いただいて、この劇を理解しようと努めてくださった沢山のお客様に感謝を述べたいと思います。本当に、本当にありがとうございました。

 

ここまで読んでくださってありがとうございます。来年3月の新人公演、見に行ってください。

 

ちなみにタイトル思いついたきっかけは年越しそばです。良いお年を。

僕は赤いどん兵衛を食べます