あしひきの山道越えむとする君を 心に持ちて安けくもなし 狭野弟上娘子
——『万葉集』巻十五より
なぜだか脳裏に貼りついて離れない、そんな和歌がひとつあります。
その詠み人の夫は許されぬ恋(詠み人は斎宮の女嬬で独身を義務づけられていました。)を咎められて流刑に処せられ、都から遠く離れた越前の地へ渡ることになりました。彼女は別れに臨んで夫の身を案じ、一首の歌を彼に贈ります。
不幸な運命を呪い嘆いて騒ぐのではなく、ただ夫の道中の身の安全を心配する。誰かを深く愛する心というのは、本当は案外素朴で単純なものなのかもしれないなぁと、共感し、嘆息しました。
もっとも、嘆きたいのは山々でも(山だけに)そんな余裕もないほど1300年前の山道が危険だったということかもしれませんが。
でも、1300年前の人たちが考えていたことって、意外と現代人でも共感できることばかりなのかもしれません。少なくとも僕はそう。
逆に今から1300年後に生きてる人たちってどんなこと考えてるんだろうなぁ。やっぱり結構僕たちと似ているんでしょうか。13,000年後なら? 興味は尽きません。
最近、友人と趣味が合わなくて困惑しています。例えば僕が絶賛した劇を他の誰かが観てまずまずの感想だったり、例えばその逆だったり。
景色、食べ物、音楽、異性の趣味。同じ時代の似たような年齢、似たような環境のはずなのに、呆れるほど価値観はバラバラです。
十人十色。百人百様。この地球上の全ての人間を価値観ごとに色分けするなら、一体どれほど多くの色が必要なのでしょうか。上空10,000メートルを飛行しながら色分けされた世界を眺めれば、きっと随分カラフルでビビッドな景色が楽しめますね!
同じ価値観を共有して感激したり、異なる価値観を発見して感動したり。
人間の心が打ち震える法則性は皆目見当もつきませんが、いずれにせよ、様々な価値観との対話で人には眠っている暇もありません。
ダイアローグは眠れない。
——さて、この劇を通じて、僕は何種類の色の脳髄を振動させられるでしょうか。
役者、映像、web
匿名希望
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劇団綺畸2017年度冬公演
『ダイアローグは眠れない』
作・演出 中石海
12/15(金) 19:00
16(土) 14:00/19:00
17(日) 13:00/18:00
於 駒場小空間
全席自由席
入場無料・カンパ制
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