ユリウスは深い苦悩の中にあった。
グラックス兄弟による一連の改革に端を発した「内乱の1世紀」は帝国開闢以来の混乱をローマにもたらす。マリウスとスラの台頭、平民派と閥族派の政争。そこにあるのは構造的限界を露呈したローマ帝国の姿だった。ローマは絶対的な指導者を求めていたのだ。
紀元前59年、ポンペイウス、カエサル、クラッススは第1回三頭政治と後に呼ばれる統治体制を構築。3者が均等に権力を握るなかで政治的な安定をはかった。しかし、その安定も長くは続かない。ローマは1人の圧倒的な実力者を求めていたのだ。
紀元前50年、ポンペイウスはカエサルに対し、軍隊を解散するよう命じる。元老院の後ろ盾を受けたポンペイウスと市民からの絶大な人気を誇るカエサル。翌1月10日、カエサルはルビコン川を渡り、兵をローマへ差し向ける。ローマが求める支配者はただ1人。
かくして、「賽は投げられた」のである。
紀元前47年8月。カエサルはポンペイウスとの覇権争いの緒戦において概ね順調な滑り出しを見せていた。眼前にはポントス王国のファルケナス2世率いる軍、総勢2万弱。対するカエサル軍も2万前後。戦力的には互角。しかし、カエサルには確固たる勝算がある。ローマが求める圧倒的な実力をもった絶対的指導者像がそこに垣間見られた。
ユリウスは深い苦悩の中にあった。周囲は、彼を皇帝に推挙する声を日増しに強めている。しかし、彼にはそれに応えられるだけの自負がなかった。決断が迫られていた。この戦いに勝利すれば、皇帝への道は開ける。果たして、それでよいのか。彼の脳裏に共和政によってその覇を成したローマの風景が浮かんでは消える。
沈思すること5分。王者の決断は早い。彼は全軍に突撃の命を放った。
紀元前47年8月。カエサルは小アジアにてローマ内乱に乗じた反乱軍と激突、これを僅か4時間で破った。その時、彼がローマへの伝者に言い含めたのがかの有名な『Veni, Vidi, Vici （来た、見た、勝った）』の語と言われる。
これがゼラの戦いである。」
ここまでを読み終えると、少年は教科書を閉じ一つ大きく息を吐いた。時は2016年1月。志望校合格に向け受験勉強に励むこの少年が、劇団綺畸の皇帝としてその名を轟かせるのは、もう少し先の話である。
照明2年 西倉寛太
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劇団綺畸2018年度冬公演
『ふれろ』
作・演出 中村光汰
12/20(木) 19:00
21(金) 19:00
22(土) 14:00/19:00
23(日) 14:00/19:00
於 駒場小空間
予約制・無料（カンパ制）
全席自由席
予約フォーム(西倉扱い)↓
https://www.quartet-online.net/ticket/kiki18fuyu?m=0kdiebg
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