一人暮らしを始めて、今年でもう3年目になります。初めは不釣り合いなほど広く感じたワンルームはすっかり乱雑さを増して、熱力学第二法則の正しさをしみじみと感じさせます。買いだめたレトルト食品、衝動的に全巻揃えた漫画の単行本、二度の侵入事案を受けやむを得ず配備した殺虫スプレー、気に入っている赤いチェックのシャツ、買っただけで満足してまだ聴いていないCD、その他諸々、エトセトラ。生活圏を侵食してくる種々のモノどもは、東京暮らしの理想と現実、成功と失敗を控えめに語ります。
思えば実家にいたころは、学校で必要な文房具くらいしか買い物をしませんでした。生活に必要なものはたいてい家にあって、新しく買ったものはたいてい家族全員の共有財になりました。これが国家なら理想的な共産主義体制。まったく平和な家庭だったのですが、自分だけのモノ、自分だけの場所というのはほとんど無かった。それが不幸だったとは言いません。ただ、あるはずの可能性をみすみす逃しているような、漠然とした物足りなさは感じていました。
杉並区にある学生向けアパートの一室。かつての自分になかった自由や秘密、たからものがここにあります。東京に来たばかりのころ抱いていた不安や心配事は、もう思い出すのも難しいほど遠ざかってしまいました。希望や抱負の方は、叶ったものが体感6割。優良可でいうと良と可の間のような生活は、ささやかな喜びと安らぎ、ほんの少しの寂しさで彩られています。こういう暮らしのことこそ等身大の幸せと呼ぶのでしょう、というのはさすがに過言かもしれない。それでもとりあえず、今のところは幸せということにしておきます。しておいてやります。
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劇団綺畸2021年度夏公演
『勿忘草』
作・演出 西山珠生
7月上旬配信予定
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